ここ数十年の間、クリティカルシンキングの教育やディスカバリー学習に対する教育について、とある傾向が存在してきた。世界の教育システムは、生徒 が柔軟に、そして自立的に考えられるようにする方法を模索しているが、多くの人の間で、丸暗記による学習は時代遅れで、丸暗記に焦点を当てた教育法では、 学習者は情報をただ繰り返すことだけが上達し、情報を上手く扱ったり組み立てたりすることができるようになるわけではないと考えられている。

仮に、丸暗記学習法が問題解決や複雑な計算に有用でないとしたら、韓国、シンガポール、中国、日本のような、丸暗記学習法がより支配的に機能している国が、数学と科学の分野においてPISA(国際学力調査)で最も高いスコアを叩き出しているのはなぜなのか。

PISA 2018

Infographic: Samuel Woo/TODAY

丸暗記法やクリティカルシンキングは、一見、二つの別個の対立した学習法に見えるが、実際、意外にも二つの間には関連性が存在する。それは、ワーキングメモリを考えると理解しやすい。

ワーキングメモリは、本来一時的なものなので、短期記憶に似ているが、短期間の情報を保管する短期記憶と異なり、情報を操作したり処理したりする事を可能にする。例えるとすれば、頭の中の作業空間であり、作業中の情報を置いておけるデスクのようなものである。つまり、ワーキングメモリは論理的に思考する上で必要不可欠なものである。

クリティカルシンキング力とワーキングメモリの関連性は明確である。

ワーキングメモリが優れていると、情報に関する知的機能のパフォーマンスが向上する。問題解決能力が上がったり、複雑な計算がより可能になる。問題解決能力やクリティカルシンキング力を訓練することで、問題を通して思考するための戦略を身につけることができ、これらの能力をより発揮できるようになる。しかし、実際にワーキングメモリの容量が増えるとは考えられていない。

丸暗記法はどのようにワーキングメモリに影響するのか?

答えは、少し意外なものである。先ほど、ワーキングメモリを作業空間に例えたが、作業空間が狭いと、処理される情報の量も制限される。九九のような単純作業で丸暗記法が使われる場合は、情報の処理に広い作業空間は必要ない。そうすると、他の情報の処理に残りの空間を使うことが可能となる。このようにして、基本的な数学の知識を暗記し自動化することで、使用されるワーキングメモリの空間を減らし、他の複雑な問題を解決することに使用することができる。

このことがどのように言語学習に関連しているのか?

第二言語習得の認知的理論では、脳をコンピュータに類するものとして捉えている。言語処理は、書かれたものを理解する上でも、口頭でコミュニケーションする上でも、脳の処理能力にある程度負荷をかけている。他言語の言葉を練習すればするほど、その言葉は徐々に自動化され、結果として、処理にかかる負担を減らし、他の新しい言葉の処理能力を残すことができる。

The Brain

The brain is similar to a computer (cognititve theory of second laguage acquisition)

したがって、語彙や文法構造の丸暗記は、言語習得において効果的な方法である。しかし、それは、全体像の一部でしかない。

記憶は流動的かつ動的なものである。一度情報を記憶し数分後も覚えていると、それはもう長期記憶の中にあるが、それはその情報を忘れないということではない。確かに、繰り返し復習することで、情報は長期記憶として確固なものになるが、認知的な知識の枠組みの中で考えると、脳内の他の情報との関連性は強くはない。そのため、その情報は簡単に引き出す事ができず、自発的に使われることも難しい。

言語を使用する上では、情報が自発的に引き出される必要がある。他言語で話したり聞いたりするとき、脳は常に言語知識を引き出している。この行為は、認知的に負荷がかかる。一方で、記憶され、復習された単語は、脳の情報処理を使って情報を引き出すのに、数秒かかる事もある。

言語知識が脳内でより強い結びつきを形成し、それを引き出す神経経路をより強固なものにするには、異なる文脈で言語を使うことが重要である。脳の機能を活発に使いながら言語知識を使うとことにより、その神経経路を発達させる事ができる。このような理由から、例えば標識を理解したり、助けを求めたりするような、目的を達成するために何度も思い出す必要のある言語知識は、特に努力せずともすぐに引き出すことができるようになる。

特に、認知的に要求されて言語を思い出す場合、神経網はより強固に構築される。学習者が深く思考する必要のない場合、丸暗記法を通して得られる結びつきと同程度のものしか構築できない。

正しい融合

丸暗記法のメリットに関する論争は、これからもおそらく続くだろうが、教育方針の作成者の多くは、確かな基盤なしに暗記のみにフォーカスした、あるいは問題解決にフォーカスするようなカリキュラムでは、最適な結果は得られないだろう、という立場を取り始めている。そうすると、理想的な状況は、この二つのアプローチを融合することである。言語学習においては、語彙の暗記で、間違いなく語彙の知識は増える。特に、多読させたり、他言語を通して何らかの主題を勉強させたり、同級生とともに面白い作業をさせたりするような、より意味のある形式の勉強法と組み合わせることで、言語学習のプロセスを早めることもできる。